[十大学合同セミナー・AFPWAA WORKSHOP 2023]

2023年度課題「世界の人々の命、暮らし、尊厳を守るには」

 「AFPWAA」は十大学合同セミナーに協賛し、2018年度よりワークショップを開催しています。ワークショップに参加した大学生は、課題に沿って報道写真を一枚選択して、日本語のタイトルと解説文をつけて作品を作ります。今回で6回目の開催になりますが、ワークショップを継続して開催出来たことには深い意義があると考えます。各年度に提出されたレポートは、激変する世界の渦中で大学生ひとりひとりが、その時代に何を感じたのかを記した貴重な資料です。

 青山学院大学名誉教授 羽場久美子先生は、ワークショップに参加する意義についてこう述べています。

 「大学で国際関係を学ぶ中で、いかに一般に言われていることの背後にある現実を深く分析検討していくか、いわゆる日々の報道のステレオタイプとは異なる発想を紡ぎ出していけるか、に尽力していただきたい。」

 2018年度~2019年度の課題は、「記憶留めておく一枚の報道写真」。

 以下は、2019年度の羽場久美子先生による総評です。

 「戦争の20世紀といわれる前世紀が終わってもなお、21世紀にも続く悲劇の現実を感じ、胸が痛む。現代国際政治経済は、矛盾に満ちており市民は深い憤り、悲しみのふちにある。しかし人類は、それを是正し、そこから脱出する『未来への展望』の力も常に持っている。報道写真には、どこにもぶつけようのない深い悲しみとともに、そこからどうしたら抜けられるかの思いにもあふれていた。」(一部抜粋)

 2020年度の課題は「世界は新型コロナウィルス感染症とどう戦ったのか」。

 審査員の青山学院大学教育人間学部教授 野末俊比古先生はこう述べています。

 「新型コロナウイルス感染症という人類共通の“敵”に立ち向かおうとするとき、格差、差別、貧困、紛争といった、私たちの世界が抱えている“ひずみ”を意識せざるを得ないことを、今回の選考を通して再認識させられた。今回の応募を通して、私たちはどう生きるのか、どんな社会をつくるのか、何ができるのか、あらためて考える機会になっていればと願っている。」

 2023年度の課題は「世界の人々の命、暮らし、尊厳を守るには」。

 AFP Forum から、この課題に最も適する報道写真を1 枚選び、同世代の⽇本⼈に伝えたいこと、知ってほしいことを、自分自身のメッセージとして記述します。今年度は85名のみなさんからご応募いただきました。

 今年度の受賞作品は、報道写真を自分なりの視点で、深く読み込むという点において、極めて優れたレポートでした。一枚の写真が描写している状況とテーマについて個の立場から、深く洞察してゆく姿勢が何よりも素晴らしかったです。

 

最優秀賞「空洞的/希望的」

 最優秀賞

 Genya SAVILOV / AFP 

自転車という「日常的」な乗り物によって、建物がポッカリと穴を空けている「非日常的」な光景を一瞥する様子から、戦争のその異常さを際立たせている。

建物の上部がかろうじて繋がっていることから、まだ希望は残されているように感じるが、一方で煤だらけで今にも崩れ落ちそうな建物の様子から、修復の困難さを見せつけられている。

残された希望は少ないが、まだ解決の余地がある。傍観者としてただそこにいるだけでなく、困難な問題解決のために模索する必要があると思う。

【背景・込めた思い】

色彩の少ない写真を意識的に選ぶようにしていた。なぜなら戦争とは色の欠落した行為であると考えるからである。なぜこの写真を選んだかというと、日常と非日常の対比が明確であり、写真の上部は淀んだ空、煤まみれの集合住宅、下部はほんの少し色彩のあるレジ袋や窓の黄色などがあり、良いコントラストであると感じたためである。また特に目を引くのが穴の空いた建物で、戦争の空虚さを象徴しているように感じたためメッセージ性の強い良い写真だと考えたためこの写真を選んだ。

また私がこの写真に対するメッセージに込めた思いは、戦争が非日常から日常へと変質していくことの異常さと、それに対する我々の無力さを伝えたいと考えたところにある。空虚ながらまだ希望の糸口はあることも伝えたい。

[早稲田大学 竹内 敦志]

 


優秀賞「さだめとひかり」

 優秀賞

HOSHANG HASHIMI / AFP

この写真にはアフガニスタンに住む人の足が映っています。この人の足やズボンはひどく汚れ、もしかしたら怪我をしているかもしれません。私はこの姿を見て、アフガニスタンという国に生まれただけでこんな悲惨な目に遭ってしまう悲しい宿命(さだめ)をこの方は背負っていると感じました。しかしその一方で右奥から覗く一筋の光に小さな希望を感じ、この人が自身の背負う宿命から放たれ希望に満ちた未来が待ち望んでいて欲しいという願いを込めました。

【背景・込めた思い】

私は以前から貧困問題に関心がありました。どれだけ平和を唱えようともこの世界には貧困や飢餓がなくなりません。この写真は体の一部しか映っていないにも関わらず、そうした現状を生の状態で伝えてくれる一枚だと思ったため、選びました。

[東洋英和女学院大学 関 真里奈]

 


佳作「『犠牲』にしてはならない」

 佳作1

PIUS UTOMI EKPEI / AFP

ウクライナ戦争とそれに伴う国際社会の動揺は、世界中の物価高騰の一因として挙げられます。日本でも価格高騰の要因となったり、特に貿易関係が強くあるEUでも食料・燃料など様々な必需品に影響を与えていたりと深刻な問題となっています。国際社会が危機に瀕する時に、最も影響を被る人々は途上国地域の方々です。我々は、戦争という大きなトピックに隠れてしまいがちな影響とその問題に目を向けなければなりません。

【背景・込めた思い】

私は、十大学合同セミナーにおいて経済セクションに所属しています。経済セクションでは、小麦価格高騰の要因を探り経済相互依存論の観点から問題を考えるという論文を執筆しました。その中で論文の内容には含まれていませんが、アフリカ地域では主食である小麦価格高騰により食料安全保障の危機に瀕していることを知りました。ウクライナ戦争というトピックは、現代社会においてあまりにインパクトが強い問題です。そのため、しばしばウクライナ戦争が与える影響を見落としてしまいます。特に、アフリカ地域に対して日本は地理的にも遠く意識して情報を得なければ正しい理解が困難であるといえます。しかし、国際社会の一員として“No one left behind”を達成するという観点から、また人道的な観点からも我々はその問題に目を向けて解決の手助けをする必要があります。そして、日本の人々が現状を知ることが、日本という国を動かす力となると私は考えました。

[早稲田大学 小笠原 萌]

 


佳作「一人の無関心が大きな沈黙につながる」

 佳作2

 YASUYOSHI CHIBA / AFP

世界には様々な差別が存在する。しかし、文化や歴史に関わらず共通で存在するのが女性に対する差別である。1967年、国連総会で女子差別撤廃宣言が採択されたが、今日でも依然として女性への差別は色々な形で残っている。アフリカ諸国で色濃く残っている女性器切除や、アジアや中東でも児童婚が残っていること、先進国でも女性役員や議員の割合が低いことなど、挙げたらきりがないほど問題が存在している。このような問題に目を背けていていいのだろうか。一人の無関心が沈黙へと繋がる。

【背景・込めた思い】

この写真に写っている二人は女性器切除や児童婚から逃げてきた子どもたちいる学校に通っている二人の少女である。女性や子どもたちの権利が守られていなく、尊厳を傷つけられている人々が多く存在する。国連で女子差別撤廃宣言が採択されてから50年が経過した。はたして50年間で、ただ女性として生まれただけで、理不尽な目にあう状況は改善されたのだろうか。女性として生きることの尊厳を傷つけられることは、人間としての尊厳を傷つけられることと同じである。一人が無関心でいることは、大きな無関心を生み出す。今日では女性に対する差別だけではなく、人種への差別など多くの差別が存在する。この差別にも同様に無関心でいてはならない。私たちにできることはなんだろうか、絶えずこの疑問に向き合っていくことで「世界の人々の命、暮らし、尊厳を守るには」どうしたらいいのか、解決策が思い浮かんでくるように思われる。

[東京女子大学 谷川 瑞華]

 


佳作「少女が語ること」

 佳作3

 ED JONES / AFP

寒さ、食糧不足による栄養失調、不衛生な水や環境、不十分な教育・医療体制など難民としての生活に多くの困難が未解決である中、肺炎に苦しむ子供たちが急増しているという現実があります。難民キャンプで暮らす人々の主な死因として肺炎が含まれていることを踏まえ、彼女の行動が何を訴えているのか、少しでも多くの人が思いを馳せ、小さくも大きな一歩となる一人の行動につなげることが必要です。

【背景・込めた思い】

この広大で人影のない場所で、少女は何をしているんだろう?と目を引かれました。近隣にある田畑で稲ではなくその茎を集めている環境の苦しさや、あたりが暗くなっている中、独りでひたすらに探し続けて生活を紡いでいかねばならない残酷さがこの1枚から見て取れます。難民として生活する彼女はその小さな背中にどれほどのものを背負っているのか、考えるきっかけを与えてくれたことを理由にこの写真を選びました。

[東洋大学 小林 布侑]

 

 

佳作「『尊い命』の未来を紡ぐ」

 佳作4

AHMAD AL-BASHA / AFP

床に紙をおき、あぐらをかき、ノートをとる。この一瞬、一日の学びがこの子たちの将来にとって、どれだけ大切な時間か。現在も続く壊滅的な中東の紛争の最大の犠牲のひとつに子どもたちの教育がある。紛争地域では、未来を担うはずの子どもたちの教育の場が失われ、彼らは「尊い命」として扱われない。この写真が撮られたイエメンのこどもたちは、ときに爆弾をくくりつけられ自爆攻撃を強要されることがあるという。子どもたちが教室に戻ることは、彼ら自身の未来と永続的で包括的な平和を実現するために協力するために不可欠である。大国による紛争によって、この子たちの「学び」の選択を潰してはならない。

【背景・込めた思い】

教育は不可欠であると考えた。

[早稲田大学 徳久 聖奈]